語学学校開始から約2週間のあいだ、SOHOエリアや通学路以外にも足を伸ばし、出来るだけ早くこの街を知ろうと努めた。
お気に入りのショップもいくつか見つけていった。「GOODS FOR THE STUDY」は、いつもとは違う帰宅コースの途中で出会ったオシャレストア。魅力的なステーショナリーや雑貨が所狭しと並べてあり、気付けばいつも、必要性をまったく感じないノートやペンをいくつも抱えていた。そこでは、留学するきっかけのひとつにもなったクライアントさんの、いくつかのプロダクトも取り扱っていて、遠かった街がとても近くに感じられた。
UNION SQUARE PARKでは、週に何度かマルシェが開かれ、野菜やはちみつ、パンやケーキなどが販売されていて、学校からの帰路にはときどき、その活気ある雰囲気を楽しんだ。
街を歩いていると、何やら独り言を話しながら歩いている人々に多く出くわした。注意深く観察すると、耳にはAirPodsが。日本では(当時は)まだあまり見ることのない光景だったがために、「何ておかしな街なんだ、ニューヨークというのは。」とさえ最初は思ったものだ。そんな光景に流されるままに、気が付けば学校帰りにApple Store SOHOへ足が向いていた。そしてニューヨーカーになりきって、街を“出来るだけ”颯爽と歩くようにした。もちろん、耳にはAirPodsだ(もっとも、自分はそれで“会話”することは一度もなかったけれど)。
3月の月末近くには、インプットのためのNew Museumから足を伸ばし、Manhattan Bridgeを通ってDUMBOへ向かった。レンガ造りの建物の合間からManhattan Bridgeが顔を出す、SNSでよく目にする有名な写真スポットだ。ひとしきり写真を撮って満足し、Manhattan Bridgeから眺めたBrooklyn Bridgeを、今度は下から臨む。このあたりは「Jane's Carousel」という復元された1922年製の回転木馬もあって、どこを切り撮っても絵になる、写真活動が捗るエリアだ。帰路には、溢れんばかりの観光客に紛れながらBrooklyn Bridgeを(もちろん写真をわんさか撮りながら)渡った。
食事は出来るだけ自炊で済まそうと努力してはいたが、慣れない言語や座学で疲れ果てた自分へのご褒美としてときどき、Whole Foods Marketの(量り売りで購入出来る)デリコーナーで食事を調達した。フライドチキンや春巻き、そしてとにかく目に付いた“茶色い食べ物”をボックスへ詰め込んだ。加えて、気休めの野菜。そしていつも、日本の調味料のコストの高さに唖然としながら店を後にしていた。
語学学校での時間を過ごす中で、一番不安だったこと。それは「人付き合いが決して得意とは言えない自分に、“友人”と言える人が現れるのかどうか」。半年もこの学校で過ごすのだから、仲の良い友人のひとりやふたりは必要だと感じていた。
そして、授業が終わればすぐに学校を後にする生活が続き、2週間ほど経った4月の初旬。私には“友人”が出来たのだ。それも、ひとりではなく、何人も。
予想もしなかったちょっとしたこと 私たちのクラスでフラフープをすることになったのがきっかけだ。デレク・モーガン似の先生から、ふとした流れで私は指名され、10名ほどのクラスメートの前で先生とフラフープ対決を行ったのだ。昔から運動神経だけは良かった私が負けるはずがない。そしてその日、私はそのクラスでヒーローになった。
それからというもの、ペルー人の女性と仲良くなってはお互いカタコトの英語でよく話すようになり、ブラジル人の女性とPERCY’S $1 PIZZAへ行ってはペパロニ・ピザを頬張り、チリ人の男性と図書館へ行っては共に勉強した。
そうしている間に、日本人の学生が男女ひとりずつ、新たに入学してきた。本当は日本人と仲良くするのはためらってはいたのだが、女の子のほうは帰国してからも繋がりの途切れない友人となった。年は十以上も離れていたが、私たちはお互いに「どう学習すれば英語が話せるようになるか」を考え話し合い、プライベートでも遊びに出掛けた。
不安が付き纏っていた学生生活。そんなこんなであっさりと良き方向へ転換したのだった。
同じ時期に、学校以外でも新しく良き出会いを果たしていた。
久しぶりにメッセージをもらった知り合いのエンジニアさんから、
「親友がニューヨークにいるので紹介したい。」
「ネイティブと話す方が、何より学びになる。」
と、ひとりのアメリカ人を紹介してもらったのだ。
Messengerで繋いでもらい、初めて会話したその日。彼の職場と私が住んでいたアパートが割と近くだったおかげで、トントン拍子で実際に会うことに。
私たちはひとしきり挨拶がてらのメッセージを交わし、ディナーの時間を共に過ごすためBryant Parkで待ち合わせた。ネイティブスピーカーと1対1となると、果たして上手くコミュニケーションが取れるのか?緊張と不安を抱え、胸の鼓動を落ち着かせながら待ち合わせ場所へ向かう。濃淡のブルーと白のチェックのシャツを着た彼は、Bryant Parkの入口で、何やら音楽を聴きながらリズムをとっていた。足早に駆け寄り、「Hi!」と声を掛けながら右手を差し出す。そして私たちは握手をした(To be continued)。